脳内作文

今更ですが、2020年末に行われたRTA in Japanでテンミリオンの解説として参加しました。RTAイベントでの解説はこれまでにもRTA in Japan Online 2019や第11回ゼルダ駅伝(いずれも大地の汽笛)などにも参加させていただいておりましたが、今回は解説の仕事についていくらか書いてみようと思います。

 

白紙の原稿

実際にRTAイベントで解説として参加された方の中には、解説原稿を公開されている方もいらっしゃるようで、私も原稿を公開してみようかなと思ったことが何度かあります。ところが困った(?)ことに、私は毎回原稿を書かないので、原稿を公開してもただの白紙にしかならないのです。もちろん意図があって原稿を準備していないのですが、こういうことをするのは少数派なのかもしれないですね、知らんけど。

 

解説するという行為

ゲームに限らず、何かを解説しようと思うと、対象に対する深い理解が必要です。よく、「そのことを知らない人に内容が伝わるように説明できるようになって、初めて理解したといえる」というようなことが言われますが、その通りだと私も思います。つまり、勉強にしろゲームにしろ何にしろ、説明できなければ理解できているとは言えませんし、対象を理解していなければ解説者という役目を気安く引き受けるべきではないと私は考えています。

 

本当の意味での解説

さて、私が解説者として参加したということは、少なくともそのゲームに関しては多くのプレイヤーよりも高い水準でそのゲームへの理解があるということになります。しかし、アウトプットが上手くできなければ解説にはなりません。アウトプットが上手くいっているかどうかは、相手が理解できているかどうかと言い換えることができます。そこで、私は初めて解説者として参加したRiJO2019に臨むにあたり、次のようなスタンスで話すことにしました。

視聴者の反応を見ながら、その場で喋る内容を組み立てる

これにより、私は初めての解説から無原稿解説というものに挑戦することになります。ただし、無原稿とはいっても、ある程度話す内容は事前に決めてあったので、これに沿って頭の中で話を組み立てればよかったわけです。けれども、お世辞にも私は話も作文も上手いわけではなかったので、これで本当にうまくいくのかという不安はありました。

その不安は杞憂に終わりました。あがり性にもかかわらず、本番当日、出番が近づいてきても不思議と緊張しませんでした。特にこれといって準備をしたわけでもなく、頭の中に漠然とこういうことを喋ろうというイメージしかなかったにもかかわらずです。そして本番がスタートすると、意外にもするすると喋ることができてしまったのです。視聴者の反応や走者のプレイに応じて臨機応変に話す内容を取捨選択したり、多少の厳密性を欠いてでもわかりやすさを優先したりといった内容構成についてもうまくいき、初めての解説はそれなりの手応えで終えることができました。また、視聴者の反応や走者のプレイを見ながら原稿を見るということは物理的に難しいというのもこの時の経験から感じました。

 

作文力の問題

さて、初の解説はまあまあの手応えで終えることができました。この時、同時に反省点もあったわけで、これは結局リアルタイムでの作文力の不足に帰着するものでした。

ところで、私は一応教育関係に籍を置いている身分でもあるため、子供に勉強を教えるということを日常的に行っています。RTAイベントでの解説とこれには共通点があります。要は、どれだけ相手にわかりやすく物事を伝えられるかということです。また、RTAの解説原稿をいくら練っても、授業計画をいくら練っても、本番になってその計画通りに進むことは基本的にありません。つまり、予定外の変更にその場で対応しなければならないということも同じです。となれば、その予定外への対処能力を向上させることは重要な課題となります。

よく考えてみると、この2つの共通課題の克服にはある能力が共通して必要です。つまり、リアルタイムでの作文力の向上、言い換えれば喋る力です。当たり前の結論ですが。あえてリアルタイムでの作文力とくどく書いていることからもわかる通り、喋る力の根底には作文力が必要です。この当時は次回RTAイベントで解説を担当することがあるとは思ってはいませんでしたが、奇しくもリアルの都合からそれに必要なスキルを磨く必要があったわけです。

そうと決まれば後はそれを練習し続けるだけです。普段の仕事で喋ることのみならず、中学入試や高校入試を控えた子供たちの作文添削を通じてもかなり多くの気づきを得ました。これにより、当初よりもかなりうまくしゃべることができるようになったことを実感した私は、機会があるならばまた解説として参加したいと思うようになります。

ありがたくもそのチャンスはかなりの頻度で巡ってくることになり、さらに解説としての経験を積むことができました。

 

RTA in Japan 2020

さて、時は2020年暮れ、ある報せにテンミリオンRTA走者である緑SM64氏と歓喜することになります。過去何度もRTAイベントに落選したテンミリオンの当選です。これに関しても元から解説は私が担当することになっていましたが、これまでと同様原稿を書くことはしませんでした。むしろRTAチャートをさらに研究してテンミリオンへの理解をさらに深めたり、Flash保全のために奔走したりしていました。このあたりは【RTA in Japan 2020】テンミリオンでタイムと戦ったり、Flash終了と戦ったりした話 - 緑SM64のいろいろメモに詳しいです。

大まかな話す内容は毎回事前に決めていたので、いつも事前打ち合わせは「だいたいこんなことを喋るよ」と走者に簡単に共有するだけで済ませていたのですが、今回は事前リハーサルを行いました。これは今回は英語再配信での英語解説をゲストCもちさんが担当してくれることになったため、詳細な内容共有が必要だったためです。

さて、いざ本番。ほぼ事前リハーサル通りに進んだのですが、リハーサルでは入れていた操作面に関する解説をすべてカットしました。これは視聴者の反応が今ひとつだったために、これ以上内容を増やすとさらに理解が追い付かなくなると判断したためです。そこで、本番での解説はかなり基本的な内容に絞ってさらに丁寧にすることにし、込み入った内容や操作面についての解説は、事前に公開していた解説記事に譲る形にその場で変更しました。この変更は奏功し、おおむね好意的な評価を頂けたと思っております。

ちなみに、当日中に行った反省会(というか打ち上げ)で操作面一切触れなかったねと文句(というと少し大げさだが)を言われましたが、意図的に省いた旨を話すと理解してもらえました。

 

今後の展望

今後も解説として参加するかどうかは未知数ですが、機会があれば参加したいなと思っています。無原稿スタイルもかなり自分の中で確立できてきたので、さらによくしていけるよう精進しようと思っています。

無原稿、みんなもやろうぜ!